Alice in the sky 〜心の病と創作とたわいのない話〜

今後不定期となります。申し訳ありませんがよろしくおねがいします。申請で診断してもらったら否定型精神病とかかれてました。よく変わる。改めて心の病持ちでよろしくお願いします。スマホで書く日が増えるかも。
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星のささやき 五章 完結

 

 

「誰?!」

しかし、言われなくてもわかっていた。体が覚えていた。見覚えのある感触。

サランだ。

「やめて・・・」

 抵抗も大して力にならなかった。ただ本当はこうしてほしかった。サランにやさしくしてほしかった。無駄なわがままだと知りつつも。ただ一人、私を優しく受け入れてくれた人。パパとして慕っている人以外の他人にこうして受け入れてくれた人はいなかった。

「サラン・・・」

 名を呼びながら玲音は涙を流す。

「屋上に戻ろう。そこならいくら泣いても誰も知らないから」

 サランが背中を押した。それに玲音は抵抗した。

「いや。あそこに戻りたくない。いやな気がするの」

「何があるんだ? 今まで何も無かったじゃないか」

「違う。わかるの。サランは消えてしまう。この世界から。私の手から離れていく。一生会えない。こんなに大好きなのに・・・」

「玲音!!」

 サランがぎゅっと玲音を抱きしめる。玲音の心を聞いてサランは決めた。国が困ることはわかる。でもフィオナのなかに玲音が宿るのならそれはそれでフィオナとして愛そう。そうでなく玲音として一人の人間がルートに来るのなら玲音を選ぼう、と。

「一緒に帰ろう。ルートに。君ならこの世界になんの執着もないだろう? ならば一緒に私と来ればいい。一緒に暮らそう」

 その言葉に玲音は怒りを覚えた。

「執着もないって? 私はこの世界を大事にしてるわ。パパだっているのに。勝手にルートに行けるわけないでしょう! いくらあなたが大好きでもそれとこれは別なのよ。私たちはもう別れ別れになるしかないのよ!」

 玲音は大声を上げるとばっとサランを振り払って走り出した。そこが横断歩道とも知らずに。

 

 バン!

 

 車が玲音にぶつかった音がした。

「玲音!!」

 サランは大声を上げて玲音に近づいた。頭の辺りから血が流れている。恐怖にサランは初めて襲われた。このまま死んでしまったら・・・。周りから人が集まってきた。誰かが救急車をと叫んでいるのが聞こえる。ひいてしまった男はおろおろしている。

「玲音! 玲音!」

 サランはゆさぶりたいのを我慢して名前を呼び続ける。

「サラン・・・。バイバイ。私は死ぬわ。わかるの。もう。だから最後に言ってあげる。愛しているわ。フィオナ姫を大事にして」

 うっすらとまぶたを上げて玲音は言うとまぶたを閉じた。

「玲音! しっかりするんだ。死ぬなんていうな! 玲音さえいれば私には何もいらない!」

 サランが大声を上げると不意に時が止まった。

動いていたものが静止している。サランが何事かと思っていると倒れている玲音の体から玲音が浮かび上がった。

「サラン。愛しい人。もうさよならね。さぁ、道はあそこよ。帰れるわ」

 玲音が指し示したところにはぼんやりと光る道が続いていた。

「あそこを通ればルートに戻れるわ」

 玲音がはかなげに微笑む。今、玲音と別れたら一生会えないのはサランにわかった。玲音の命がルートに帰るきっかけになったのだ。

「いやだ」

 サランは言った。

「何? サラン。よく聞こえないわ」

「い・や・だ!」

 強調してサランは言う。

「今、帰れば玲音は命を失ってもう二度と会えない。そんなのはいやだ。俺は皇太子だ。国を守らなければならない。だが、玲音が体験したように意識だけが戻るのなら俺が戻らなくても勝手に俺が俺を演じてくれるはずだ。お人形になるつもりはない。俺は玲音を愛している。これ以上ないほど。玲音を失うくらいなら死んだほうがましだ!」

 サランの絶叫があたりに響いた。

 そんな二人の頭上から声が聞こえてきた。

「よく言いましたね。サラン。玲音。死ぬ必要はないのですよ。あなたたちは試験をクリアしました。これから新しい世界に行きます。あなたたちはその世界のはじめの二人になるのです。星々の導きにより。二人は選ばれました。でも試練が必要だったのです。強い愛情の試練が。お互いのことを知って愛することが必要だったのです。今、私たちの友人があなた方を導きます。その導きで新しい世界を作りなさい」

 二人の頭上からの声が途切れたと思うとまぶたを上げることさえできないあふれんばかりの光が降りてきた。その光は二人を包み込む。

「サラン・・・」

 鈴音の不安げな声が聞こえてくる。

「ここにいる」

 二人は手を伸ばして握り合う。

「もう二人は離れる必要はありません。いつまでも幸せに」

 誰とも知らぬ声が聞こえてきたかと思うと二人は見たこともない土地に立っていた。

 そよ風が玲音とサランの髪の毛をなでていく。緑あふれる大地になぜか愛しさがこみ上げる。振り返ればぽつんと一軒家があるだけだ。

 見れば鈴音は怪我すらしていない。思わずサランは鈴音を抱きしめた。

「痛いわ。サラン」

「これぐらいで痛がる鈴音じゃないさ。もう失ってしまうかと思っていた」

 サランの声が震えていた。鈴音はそっと手を広い背中に回した。

「これからはずっと一緒よ。飽きても嫌いになっても離婚とかできないんだからね」

「ああ」

 

 サランの力強い声が鈴音を満たしていく。二人は星の導きで新たな世界で生きてく。運命は表裏一体。誰が言った言葉だったか。サランは思い出しながら玲音を抱きしめ続けた。

 

 星のささやき

 

 

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