Alice in the sky 〜躁鬱と創作と時々朱印〜

日月水でやってきましたがなかなか更新できず今後不定期となります。申し訳ありませんがよろしくおねがいします。長年統合失調症と思ってましたが今日躁鬱病と訂正入りました。改めて心の病持ちでよろしくお願いします。
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銀のしずく 金のかがやき 愛を覚えていますか3

JUGEMテーマ:ファンタジー恋愛もの

 

私は恨んでいた。あのいとしい人を奪ったやつらを。いや、やつなのかもしれない。

元凶はやつなのだから。だから私は街々をさまよい、情報を集めた。だけどやつの居所は20年も前から姿を消していた。そんなときに耳にしたのは死神一族のことだった。

 妖魔を退治する専門の一族。あそこでなら誰かはなしを知っているかもしれない。

そうして私は一族の村を探して回った。そこであの人に出会った。

 

 青年、ラグーはただ祈っていた。静かにずっとその墓石の前で手を合わせていた。

 

 もう二十年にもなるのか。アルカが逝ってしまってから。ラグーはひとり心の中でつぶやいていた。

 あの雨の日、あの少女、アルカは高熱を出し寝込んでいた。初めてであった人間の女の子。初恋の相手、アルカ。アルカは明るい笑い声の絶えない子供だったが病弱だった。あの雨の日も高熱を出して寝込んでいた。そして今夜が峠と村の村長が言った。

「そんな! アルカは決して死なない。僕が守ってみせる!!」

 涙声で叫ぶラグーの頭を養父シャインはラグーの頭をくしゃっとなでた。

「人にはな、できることとできないことがあるんだ。もうあとは祈るしかない」

「いやだ! そんなの!」

「ラグー!!」

 ラグーは外へ飛び出した。大雨が降っていた。まるでラグーの涙のように。ラグーは外に立ち尽くして涙を流していた。大雨が涙を隠してくれたのが幸いだった。アルカは決しして泣かないラグーが大好きだった。元気で理知的なラグーをいつも兄のようにしたい、ラグーも妹のようにかわいがっていた。そのアルカが命を失うときに自分は何もできない。全魔力を使って子供に生まれ変わったのだから。今のラグーにはどうすることもできなかった。好きでもない神々に祈るしかないのか・・・? 

「ラグー、アルカが呼んでいる」

 シャインが雨の中立ち尽くしているラグーを探してやってきた。

「最後のお別れだ。何か言ってやれ」

「シャイン・・・」

「仕方がないんだ。人間には天寿がある。アルカは今まさに天に飛び立とうとしてるんだ。最後に祝福の言葉を」

 そんなむごいことがなぜ人間はできるのだ? 人が死ぬのに祝福だと? ラグーは再び魔王となってこの世界をめちゃくちゃにしてやりたかった。アルカのいない世界なんて考えられない。

「さぁ。ラグー。後悔しないうちに」

 養母フェリアナもやってきていた。とぼとぼと歩きながら、そしていつしか駆け出していた。急ぎ足でラグーはアルカの部屋へ戻った。

「ラグー。きてくれたのね。ありがとう。今まで。わたし、ラグーのこと大好きだった。

これからもずっと大好きよ。ありがとう・・・・・」

 そういってアルカはまぶたを閉じた。ふぅっという最後の息をはいてアルカは旅立った。

「僕に救える力があったならよかったのに・・・」

 ラグーのほほから一粒涙がこぼれた。

「しかたないさ。人間なんだから」

「だったら僕は!!」

「ラグー。考えてはだめ。どうして人間なのかよく考えるのよ」

「母さん・・・・。フェリアナ!!」

 ラグーは死神一族の村に来て初めて号泣した。

 

 あのときのことが走馬灯のようによみがえる。ラグーはアルカの墓の前で手を合わせながら思い出していた。そしてアルカの魂が天で安らかにできていることを祈っていた。

 そこへ人の気配を感じて顔を上げて横を向くと、今にも倒れそうなそれでもぞっとしそうな眼光鋭い少女が立ち尽くしていた。

「君、大丈夫かい?」

「あなた、死神一族なの?」

「ま・・・まぁ。そんなもんだ。それをなぜ?」

「お願い。村へ連れて行って。私にはすることがあるの。あの魔王ラグナルを倒す必要が・・・」 

 少女はそういうとゆらりと倒れた。

「君!!」

 青年ラグーは少女を抱きとめると村へと引き返した。

「ラグー! どこに行っていたの・・・あら。そのお嬢さんは?」

 いまや、ラグーを含めて五人の肝っ玉母さんであるフェリアナはラグーの抱きとめている少女に目をやった。

「今日、アルカの命日だから墓前で祈っていたらこの子がやってきてそこでばたん、と」

「ああ。そうね。もうそんなに時がたっていたのね・・・・」

 フェリアナが遠い目をする。あの悲しい出来事はフェリアナにも悲しい思い出として残っていた。

「おお。かわいい少女ではないか。私にも・・・いたっ。メリー手をたたかないでくれ」

「よそのお嬢さんに手出しは許しません」

 シャインの家に遊びに来ていたクーグル伯爵夫妻が痴話げんかを始める。

「母さん。とにかくこの子を部屋に入れて寝かせてあげられないか?」

「いいわよ。ラグーはそのまま運び入れて、こっちの部屋に寝かせるから。あら。そうとうさまよったのね。体中が汚れているわね。メリー、手伝って。この子の体も拭かないと」

「え、ええ。いいわよ。アベル? 決して覗くなんて下品なことを考えないでくださいよ」

「もちろんさ。私はメリーにくびったけなのだから」

「はいはい。ほめ言葉は後でいただきますよ」

 メリーはそういうとフェリアナの後についていった。

「似ている・・・」

 ラグーはぽつりとつぶやいた。

「誰にだ?」

 一番下のやんちゃ坊主を腕にぶら下げてシャインがラグーに尋ねる。

「アルカだ。アルカに生き写しなんだ」

 あの眼光鋭い目つきをもっとやさしくすればアルカに生き写しだ。

「やめとけよ。ラグー。初恋を反映させるなんて彼女がかわいそうだ」

「そうだとも。愛し合うものが結ばれるべきなんだよ」

「わかっている。でも・・・」

 ラグーは声を上げようとしたがすぐに消え入る声に変えた。

「アルカはアルカ。あの少女はあの少女だ。間違えるな」

 シャインの厳しい言葉にラグーははっとした。戒めの言葉が入っていたからだ。

「わかっているよ。父さん。いまさらアルカそっくりだからって初恋を蒸し返さないよ」

「ならいいんだ。ほれ。お前も兄弟と遊んで来い」

 一番ちびの子をラグーに譲り渡すとシャインはアベルとさっさと出て行ってしまった。

「ちょ・・・ちょっと父さん!!」

 いまでは自然にシャインを父さんと呼べる。フェリアナを母さんと呼べる。家族がいるのは幸せだ。あの時、シャインに殺されなくてよかった。シャインのばかげた言葉に従って人間になったおかげで充実した一生を送ろうとしている。ただ恋だけは苦手だが。

「終わったわ。そうとう疲れているのね。体中があざだらけだったわ。いろんな町をさまよったのね」

 フェリアナが戻ってきていう。

「ええ。とてもかわいそうなお嬢さんでしたわ。あんな若い身で何をしにここへやってきたのかしら?」

「魔王ラグナルを倒しにきたのさ」

 皮肉っていった言葉にフェリアナはどきとした。

「ラグー。あなた」

「心配しないでくれ。母さん。僕はもうラグーだよ。ラグナルはいない」

「そう。それならいいけど・・・」

 不安そうにフェリアナが答える。ラグーは自らの命をあの少女に託すのではとなんとなく感じていたからだ。秘密を明かして殺させるのではと。命をなげうって彼女の望みをかなえさせるのではと心配した。

「じゃ、アンリにジャン。遊びに行くぞ」

 クーグル家跡取りと一番下の子供を両手にぶら下げてラグーはその場を去った。

 

 アンリとジャンが村人手製のブランコを競って動かしているのを見ながらラグーは悩んでいた。

 

 なぜラグナルのことを探していたのだ?

 僕に何の用なんだろうか。

 僕はあの少女の恋人でも奪ったというのか。

 あれの目の鋭さは憎しみと愛でゆれていた。いとしい人を亡くしたのはすぐにわかった。ラグーと生まれ変わってもそれぐらいの判断はつく。それと僕に何の関係が・・・。

 そもそもなぜ僕の居場所がわかったのか?

 考え事にふけっているとふいに弟の泣き声が聞こえてきた。

「ジャン!! 落ちたのか?」

 一番下の弟は生傷が耐えない。フェリアナもシャインも一番シャインに似ていると笑っている。おっちょこちょいで愛嬌の耐えない弟。その弟を悲しませることはしたくなかった。自分がラグナルと名乗り出て殺されればいいのだろうか? ふいに絶望感がよこぎったがそれを払いのけてジャンへ気持ちを向けた。

「どこが痛い? 足か? 頭か? 体か?」

「ジャンは頭が痛いよね? からっぽの頭が」

 アンリがばかばかしそうに言ってジャンは急に立ち上がった。

「僕の悪口なんて言って〜。アンリのおねしょの話ばらすぞ〜〜〜」

 ジャンは先ほど泣いていたのにもかかわらずまた元気よくアンリとはしゃぎまわっていた。

「そーか。アンリはおねしょ癖が直らないのか。子供だな」

 笑いを含んだ声で話すとアンリが突進してきた。

「おっと。そんなことではラグー様を倒せないぞ?」

 倒せない。その言葉がまた頭に響いた。

 今の人間の僕なら殺せる。あの少女の願いを聞いてやってもいいのではないか?

 そんな悪魔のようなささやきが聞こえてくる。と同時に急にラグーは押したおされた感覚を味わった。

「やーい。ラグーなんて簡単に倒せるぞー」

 アンリがその辺をぐるぐる回りながら揶揄している。

「なにをー」

 ラグーは物思いを途中でやめてアンリをおっかけはじめた。

 

 ちゅんちゅん。

 

さわやかな小鳥のさえずりに少女セイラは目が覚めた。はっとして体を起こす。

 

 ここはどこ?

 私はさっき、墓場であの人に出会って・・・・。

 それから思い出せない。そらから見慣れない天井。気がつけば体は清潔にされて簡素な服を着せさせられていた。

「あら。もう目が覚めたの? 体は大丈夫?」

 盆にかゆと飲み物を持ってフェリアナが入ってきた。

「あんまりにも体が汚れていたから拭かせてもらったわ。迷惑だったかしら? その服は娘のものよ。背格好が似ているからちょうどいいの。これも迷惑だったかしら?」

 ちらりと不安そうな光をみせたフェリアナにセイラはぶんぶんと首を横にふった。

 フェリアナは一笑波顔した。とても素敵な笑顔だ。幸せな人生を送っている証拠だ。

それに引き換え私は・・・。

 少女、セイラは顔を曇らせた。

「あらあら。何か気に障ることでもいったかしら?」

「いえ。私には無縁の世界にいるようで・・・」

「そんなことはないわ。幸せは道端にころがっているのよ。どんな小さなものでも。それを見過ごすか見過ごさないかは貴方しだい。私も最初は知らなかったわ。ちょうど貴方のように妖魔を倒す日々にあけくれていた。あなたは何を探していたの。ラグーが死神一族を探していたようだと言っていたけど・・・」

「ラグー・・・」

 その名前を聞くとなんだかくすぐったい気持ちにかられた。

「あの人は?」

「外で弟たちに剣を教えているわ。まぁ、たんなるお遊びに過ぎないけど」

「弟? それではあなたは・・・」

「一応ラグーの母親よ。生んだわけではないけど一応親として世間では通じているし、村のみんなも私たちの子供だとおもっているわ」

「ラグーのご両親は?」

「それは・・・」

 フェリアナがふっと口ごもった。

「ああ。ラグーの親はしんじまって知り合いの俺たちが引き取ったんだ。なぁ。フェリアナ」

 ドアのところからぱっと顔をだしたシャインが助け舟を出す。

「え、ええ。そうよ。親のいなくなったラグーを引き取ったのは確かよ」

 なにかある。ラグーに関する秘密が。セイラにはそう思えた。それはあけてはならぬパンドラの箱のような気もしたがあける必要があるとセイラはふとおもった。かんがそう告げたのかラグーとラグナルの名前が交差した。

 まさか・・・ね。でも20歳前後に見えるラグーとラグナル失踪の20年前となにか関係があるような気がした。名前も似ている。ラグーとラグナル。彼らはどんな関係なんだろうか。まったくの白ということもある。少し探りを入れるべきだろうか。セイラは物思いにふけった。

「ここの卓上に盆を置いておくからすこしさめてから食べて。熱いから気をつけるのよ」

 そういってフェリアナは動揺を隠すように部屋を出た。

「シャイン・・・。あなた。ラグーが」

「わかっている。あの少女はラグナルを探している。だが、ラグーは命をかけて守るさ。俺たちの息子だろう」

「ええ」

 フェリアナは不安な心を押し隠してそっと涙を拭いた。

 

 数日後セイラはやっと外へ出してもらえるようになった。衰弱しきっていた体を元に戻すにはそれぐらいの日数がかかったのだ。体の生傷も癒されていた。毎日窓から聞こえる子供の声とラグーの声に心を和ませていた。ラグーとラグナルがなんかの関係があり、それを調べるにはこの死神一族にいたほうがいいとおもってフェリアナたちの好意を借りて居候させてもらっていた。だが、毎日ラグーの声を聞いているとだんだん心が和らいでいったのは事実だ。青年らしい、しかし落ち着いた声にセイラは安らぎを感じていた。あの人の声に癒されるなんて私はどうかしている、と思うも聞くだけで心が和んでいく。会いたいと思った。そして外出許可がでて初めてフェリアナの娘という女性の服を着て外へ出た。

「何の稽古なの?」

 剣の稽古ととは程遠い子供たちのじゃれあいにラグーは身をおいていた。

「あ、いや、今のはその弟たちに付き合って」

「あー兄ちゃん。女の人みて真っ赤になってる。おかーさんに知らせよう」

 そういって去ろうとしたジャンの背中をラグーはむんずとつかまえる。

「そんなことしたら晩御飯わけてやらないぞ」

「ええ〜〜〜〜」

 なさけなそうにジャンが座り込む。

「いいやい。兄ちゃんがその気ならお父さんにわけてもらうもん」

「あの父さんがわけるもんか。お前たちのうらやましげに見てるのに。すきあらばかっぱらっていく人だぞ」

「うっ」

 くすくす。

 やりとりにセイラは思わず笑い声上げていた。

「あ、ねぇちゃんが笑った」

「ねぇちゃんじゃないだろう? 君、名前は?」

「セイラ。セイラ・マーシュよ。あなたは?」

「ラグー。ラグー・ライトだよ」

「ライト。明るいあなたにはちょうどいいわね」

 にっこりとセイラは返したがその言葉にラグーの瞳が一瞬うつろになった。

「セイラ・・・・」

 思い切ってラグーが口を開いたときフェリアナがやってきた。

「あらあら。こんな薄着で外へ出ては風邪を引くわよ。ラグーもお昼ご飯が出てきたからそのへんのちびたちをつれていらっしゃい」

「はいはい。かあさん。人使い荒いんだからな」

「はいは一回よ」

「わかってるよ。じゃね。セイラ。昼食の席で」

 いっしゅんみせた暗い顔はみじんもなくラグーは駆け出していった。

 あのう、とセイラはフェリアナにたずね始めた。

 

 昼食のジャンとシャインの食べっぷりはすごかった。フェリアナはそれを見越して大量の昼食を作っているのだが足りない。シャインは子供たちの残飯を狙っている。ジャンも同じく狙っているがこちらはスポンサーがいるらしい。ラグーがひょいっとおかずをジャンの皿にもってやる。ジャンはこの優しい兄の振る舞いで腹を満たすことができた。

「さぁ。ジャンにシャイン。食後の運動をしなさいよ。ラグーはゆっくりしてなさい。セイラのお相手でもいいかもね」

「にいちゃんのお嫁さん?」

 おませな妹ランがたずねる。

「ば、馬鹿!! 会って数日の女の人に結婚してくれという馬鹿がいるかっ」

「にいちゃんがいじめるー」

 ランが泣き出す。すると動揺していたはずのラグーは妹をひざに乗せてあやし始めた。

「ラン。おませななのはいいがお客さんの前で行儀悪いのはよくないだろう? にいちゃんがあとで遊んでやるから。おねえさんがゆっくり休めるよう手伝ってくれるな?」

 ラグーがやさしく言うとランは笑顔を取り戻してラグーに抱きついた。

「にいちゃん。大好き」

「僕もだよ。ラン」

 

 

 大家族のほのぼのした風景を見てセイラは心が休まるのを感じた。同時に孤独も感じた。自分に親はいない。捨てられていた。孤児院で育ちあの人に出会った。なのにあの人は・・・。

 

「ねぇちゃん。泣いているの?」

 ランが背伸びをしてセイラのほほをなでていた。

「違うわ。ねぇ、私と一緒に村を案内して。いろいろ見たいの」

「にいちゃん。ねぇちゃん村みたいって。一緒に行って来ていい?」

「ああ。しっかり案内するんだよ」

「わーい」

 そういってランはセイラの腕を取ると家を出て行った。

 

ランに振り回された夜、セイラは気分がまだ高揚していた。死神一族といっても怖い存在ではない。普段は自給自足生活をしている。死神一族の村への入り口には門番の魔物がいて普段は入れないがセイラはラグーに保護されたおかげで無事に入れたとわかった。

この好機を生かさない手はない。セイラは希望を見つけた気分で部屋から外を見ていた。ふと人影にきがつく。目を凝らしてみればどうやらラグーのようであった。

「ラグー」

 そっと名前を呼ぶ。だが聞こえない。セイラは上着を羽織ると外へ出た。ほかの子供たちはもう寝てしまったかばたばたしてフェリアナにしかられている。フェリアナ自身の子供たちのみならずよその家の子供まで入り混じって遊んでいる。この村ではそんなことは通常らしい。最初は知らない人間を家に安易にいれることはどうかと眉をひそめていたが子供だ。ろくなことはしない。フェリアナも自分の子供のようにようしゃなく尻をたたきお仕置きしていた。そんな光景が当たり前になってきた今日、外に一人でいるラグーが気になってフェリアナに一声かけるとさっと出て行った。

 

「ラグー」

 セイラが声をかけるとラグーは身じろぎして振り返った。

「誰かと思えばセイラじゃないか。ランにつれまわされて疲れたろう。早く眠ったらいい」

「それがなかなか眠れなくて」

「悩み事でもあるのかい?」

 どきり、とした。悩み事はある。だが今言うべきではない。

「ううん。ただ外にいるラグーが寂しそうで」

「寂しそう・・・か。そうかもしれないな。この傷はいつになっても癒されないよ」

「傷?」

「そう。深く暗い闇に閉ざされた傷さ」

 自嘲気味に話すラグーをセイラは抱きしめたくなった。

「そんなくらいこと考えないで。いつものように笑ってよ。やさしいラグーに会いたい」

 セイラはそっとラグーの腕に手をかけた。

「ごめん。たまにこんな気分になるときがあるんだ。僕は僕なんだけどね・・・」

「ラグー?」

「風が出てきた。中へ入ろう」

 話を中断してラグーはセイラの手をとって家の中へ入ろうとした。そしてぱっと手を離した。

「ごめん。いきなり手をとって。驚いただろう?」

 月夜に照らされたラグーの顔は真っ赤だった。

「ラグーってうぶなのね。それぐらいで恥じる私じゃないわよ」

 そういってセイラはラグーの手をとって逆に村のブランコに向かっていた。

「セイラ。そっちは」

「いいじゃない。いまさら照れることじゃないでしょ。一緒にブランコの競争しましょうよ」

 セイラの挑戦にラグーもやる気を出したようで手を離すとブランコに向けて走りだした。

「待ってよ」

 セイラはラグーを追いかけ始めた。

 

きこ。きこ。

 

 ブランコが音を出す。静かな村にそっと音を奏でる。すわっていたラグーとセイラだったがいつしか二人ともたってブランコをこぎはじめた。

「どっちがたかくいけるか競争よ」

「受けてたつ」

 ラグーが言うと勢いよくラグーが漕ぎ出した。

「なんの」

 セイラも負けじと漕ぎ出す。

 静かな村の中に笑い声が響く。

 セイラは三年ぶりに笑っていた。忘れていたと思っていた笑いを思い出していた。そっと唇に手をやる。その瞬間セイラはブランコから落下していた。

 あっというまの出来事だった。だがゆっくりゆっくり地面が近づいてくる。ぶつかるということだけが頭を支配していた。なんとかしないと思うも体が言うことを聞かない。

体が地面にたたきつけられると思った瞬間、体は宙に浮いた。ラグーが抱き上げていた。

「セイラ。驚かさせないでくれよ。君に怪我があったらフェリアナ・・・いや、かあさんにたたき殴られる」

 その描写が目に浮かぶようでけらけららとセイラは笑った。

「笑い事じゃないよ。男子たるものすべて女子を守るべしといって聞かないんだからね。でもまぁ、役得かな?」

「ちょ・・・ちょっと。ラグー。おろしてよ」

「やだね」

 ラグーはそのまま抱えているとブランコに座った。セイラをひざにのせて座らさせる。

「セイラ。君はこんなに若いのになぜこんなつらい旅をしている? 君には大事な人がいたんだね・・・。あいにく僕には大事な人は見つかりそうもないよ。せっかくこの世に生まれ出でたのにね」

「ラグー」

 ラグーの悲しみが伝わるようでセイラはラグーのほほにそっと手を添える。ラグーの見えない涙が見えるような気がした。

「あなたも大事な人を失ったの?」

 自然と出た言葉だった。

「ああ」

 そうしてラグーも自然と答えていた。

 お互いそれ以上は聞かなかった。

 

 セイラは死神一族の村で静養を続け元通りになるまで回復した。

 だが、出て行こうと思うにつけ何かと理由をつけては逗留を重ねた。ひとつはラグーがあまりにもラグナルと名前が似ているからだ。なにかこの青年は知っているのではないかと思うのだ。そのほかは他愛もない理由ばかりだった。人の中にいたいとか子供たちの笑い声を聞いていたいとかそんなことだった。そしてラグー自身に興味を持った。ラグナルとの関係をはずして。ラグーは茶目っ気もある青年でよく下の弟妹をかわいがっていたが時折見せる暗い影が気になっていた。思いつめている、そんな様子があってほうっておけなかったのだ。そんな顔をしていると飛び込んでいって笑顔を取り戻させたかった。ラグーもセイラを気にかけ何かと世話を焼いてくれた。つりやピクニックの行事に参加させてはセイラを笑わせていた。セイラも一種の緊張の中に安らぎを見出していた。 

 だが、時は無情にも過ぎていく。ラグーの暗くなる回数も増えてきた。そのことはシャインやフェリアナも気づいていた。そしてある晩のことシャインとフェリアナはラグーを呼び出した。

 

「お前、まさかラグナルの時代のことを話すつもりじゃないんだろうな」

 シャインが息子というよりは同世代のものにいう語り方ではじめた。

「シャイン。僕は。全魔力を使って人間に生まれ変わった。それでも僕の罪は消えない。人々の命を奪い恐怖を味合わせた罪は消えない。もしあのセイラが僕の命で救われるなら差し出してもいい」

「ラグー! 馬鹿なことを考えないで!」

 フェリアナが声を上げた。

「何のために人間になったの? 幸せに生きるためでしょう? 貴方の罪は消えない。でも人間として生きてすばらしさを知って少しずつ罪を償えばいいはずよ。命を差し出すなんて狂気の沙汰だわ」

「それが死神一族じゃないんじゃないか?」

 ラグーも強気に反発する。

「妖魔を倒すことに命を差し出しているのは死神一族じゃないか。今でこそ妖魔は減った。

だが少なくなってなお強くなって統制が取れなくなった妖魔もたくさんいる。セイラはきっとその妖魔に大事な人を奪われた。それぐらいわかるよ。誰だって。愛するものを失ったら誰だって狂気の沙汰になる。それを償う方法になにがあるんだ?」

 フェリアナとラグーがにらみ合った。強い視線でにらみ合った。最初に視線をそらしたのはフェリアナだった。

「そうね。愛するものを失えば狂気にはしる。でもまた人は人を愛せるのよ」

 一度は視線をはずしたフェリアナだがまた視線をラグーに戻した。強い視線だった。カインとアンテ王女のことを言っているのはすぐにわかった。

「奇行をしていたクールグル公爵は今ではいい貴族に戻ったわ。愛する人アイリーンを失って世界の裁きを行おうとしていた彼が立ち直れたのは愛する人がそばにいたからよ。私たちはそれを見てきたわ。あの少女にすさんだ魔物がいるとすればあなたがその魔物を退治しなさい。命を差し出すのではなくその人の中の輝きを見つけるのよ」

「輝きってどうすればみつかるんだ? 僕は何千年と絶望を味わってきた。今だってそれは消えない。そんな僕にどうやって彼女の光を見つけられるんだ。自分の光さえ見つけられないのに」

「それでもやるのよ。彼女を普通の女の子に戻すのよ。憎しみで満ちた目でみる世界でなく愛する目でみる世界を教えるのよ。ラグー、あなたならできるはず。あなただってこの弟や妹を愛してるじゃない。血がつながっていないのに。あの子達を嫌っているの?」

「そんなことはないよ。かあさん。僕はいつだってフェリアナとシャインの子供だ。それは胸を張っていえる。あの時生まれ変わればいいといわれたときの心の歓喜を忘れたことはない。救われた気持ちを忘れたことはない。ただ僕には長年の癖があるだけだ。そこはかとなく死にたいという気持ちがあるということだよ。疲れ切って死にたいという気持ちがまだ残っているだけだよ」

「ラグー。つらいわね。こんなに時間をかけてもまだ心の傷は癒されないのね」

 フェリアナがラグーを抱き寄せようとした。それを制してラグーは二人をみた。

「大丈夫だよ。僕は二人の子供だよ。二人がそんなに言うならセイラには僕が何者か言ってそして人間の僕しかいないことを話す。そして彼女がどうでるかは二人が見ていて。明日すべてを話そう。だましているのはよくないよ」

「そうだな。いつまでも隠せない。すべてを話そう」

「あなた!」

「フェリアナ。そこでラグーを殺したいというなら俺たちが全力でラグーを守る。セイラには申し訳ないが俺たちの息子をむざむざ殺させるつもりはない」

「シャイン。ありがとう、君・・・いやとうさんにはいつも助けられるな」

「それが親っていうものさ。お前は俺の息子。ラグナルは消えた。それだけだ」

 シャインは今で勇者なのだ。普通の中年となった今でも心はセイントなのだ。そこにラグーは救いを見出した。ラグーは立ち上がる。フェリアナがすがるような目つきでみる。それを振り切ってラグーは言った。

「それじゃ、遅いから眠るよ。明日きちんと話したいからね」

「ああ。そうだな。俺たちも寝室に引き上げよう。フェリアナ」

「でも・・・」

「フェリアナ。ラグーの決断が正しいんだ。したいようにさせてやれよ」

 シャインは目線でラグーに部屋を出て行けといってラグーが出て行くと同時にフェリアナを抱き寄せた。

「俺たちの息子はなんとしても守る。セイラはわかるよ。きっと。憎しみからはなにも生まれないと」

「シャイン・・・」

 フェリアナはシャインの腕の中でほんの少し涙を流した。

 

ラグーははっとした。小鳥にえさをやっているセイラの姿は穏やかで幸せそうだった。このまま幸せなままこの村にいついてほしい、そう一瞬願った。だが、それは間違っている。真実をこの少女は知らなければならない。苦しい思いでラグーはセイラに声をかけた。そしていつ死んでもいいようにと美しいセイラの姿を心に焼き付けて・・・。

「セイラ。探したよ。これから僕と両親から話があるんだ」

「ラグー」

 小鳥にえさをやっていたセイラは落ち着いた声でラグーの名前を呼んだ。

「あなたとラグナルのことね?」

 とうとうやってきた。療養としていついてやっと話を聞きだせる。セイラは憎しみと愛で渦巻いた心が喜ぶのを感じていた。そしてその一方で悲しみを覚えていた。

「ああ。村長の家を借りた。そこで話そう」

「そんなに大変なことなの?」

 不安そうにセイラはたずねる。

「いや、ちっともたいしたことじゃないけど誰にも聞かれない話をするときは村長の部屋を借りるのさ。僕たちの特権ってところかな?」

 にっこりラグーは笑う。その笑顔にセイラはなんだか胸を刺す痛みに襲われた。

「セイラ?」

「いいえ。こちらのことよ。私の話も聞いてほしいの」

「ああ。いいとも。こちらも両方の話ができないといけないからね。一緒に行こう」

 ラグーが手を差し出す。セイラが手をとる。なんだか自然な行為に思えた。昔から決まっているような。自然な動きだった。

 二人は村長の部屋へと向かった。

 

 そこには村長とシャインとフェリアナがすでに待っていた。

「遅いぞ。ラグー。心配したじゃないか」

 案外神経の細いシャインがラグーをにらみつける。

「そう。きつくいうものではない。若者には若者の時間が必要じゃ」

「え? あなたたちそういう・・・?」

「なわけないだろうー?! とうさんもかあさんも村長もぼけないでください!!」

 真っ赤になったラグーはセイラを自の差し向かいで座らせた。

「ラグー。その席の配置はよくないと思うんだが」

「これでいいのさ。さぁ。セイラ。ここに来たわけを教えてくれないか?」

「私から情報を差し出さないといけないの? まぁ、お世話になったからしかたないわね。それは私が小さなときの話よ。私は孤児だった。孤児院で育ったの。そこにダニエルという慕っていた兄のような人がいた。私とダニエルは結婚の約束をしていたの。でも三年前、ダニエルと私は妖魔に襲われ、ダニエルは私の変わりに妖魔の餌食になったの。なにもかも妖魔のせいですべてが壊れた。その日から誓ったの。私は妖魔をすべる魔王ラグナルを倒すって。でもどこへいっても20年前から魔王ラグナルに関する情報がなくなっていることに気がついたの。そして死神一族のことを知ったわ。妖魔退治を専門にしている一族のことを。そこに行けば何かわかると思って旅を続けた。そこでラグー、あなたとであったの。墓石の前で静かに祈っているあなたと。私の話はこれだけだわ」

 一気に話したセイラはふぅっと息を吐いた。そうか、とラグーは小さくつぶやいた。

「ラグナルはもういないんだ。セイラ。なぜなら。ラグナルは勇者によって生まれ変わったからさ。そう。二十年前、ラグナルは世界の裁きを阻止した勇者シャインに挑戦状を渡して死神一族を死の恐怖に陥れた。わざと来るしかないようにこの村人を襲った。そしてたどり着いた勇者シャインは悪の道に浸って絶望に陥っていた魔王ラグナルになんと説教したんだ。全魔力を使って人間に生まれ変われと。ばかばかしいだろう? 自分たちの命を狙った犯人に人間になってもう一度生きなおせというやつなんか。でも「私」はそれに従った。「私」はラグナルという名前を捨て「ラグー」という子供となってこの村にやってきた。そしてそのままいついている。君が探しているラグナルはもういないんだよ。悪いと今は思っている。魔王がいないため妖魔たちの統制が取れていない。それは「僕」が犯したミスのひとつだ。魔王がいなくなれば妖魔もいなくなると踏んでいたんだが。妖魔はどこからやってくるのか実は「僕」も知らない。神々も知らないだろう。人の負の感情が妖魔を引き出すんだ。今は人の方が怖いんだけどね。さて「私」がラグナルと知って、さらに妖魔がどこからやってくるか知って「僕」を殺したくなったかい? 僕は甘んじて受けてもいいと思っていたけどそれは間違っていたと気づいた。君の中にいとしい人はいる。その人は君がラグナルを倒して手を血にそめることを望んでいるだろうか? いや、僕は思わない。

僕は君に幸せになってもらいたいと思っていると思うよ。僕は君の中に希望があると望んでいる。ラグナルに新たな生まれ変わりがあったように君も生まれ変われると信じている。僕と一緒に生まれ変わらないか? 僕は君の心の中に穏やかな光を見つけた。今日、小鳥にえさをやっている君。それが本当の君なんだ。やさしいセイラ。それが君なんだ。憎しみを手放してほしい。僕は死ぬわけには行かない。父も母も兄弟たちもいるから。だけど君の力にはなれる。こんな僕がいやなら王都の知り合いに君を預かってもらって新しい生活をしてもらえることだってできる。ただ僕は君の美しいその髪の毛が日の光に光っているように心も光っていると思っている」

長いラグーの話を終えてセイラの瞳には涙が浮かんでいた。

「わかっていたわ。あなたがラグナルだと。でも殺そうと思っても殺せなかった。いつも聞こえてくるあなたの声があんまりにも優しくて。弟たちとはしゃぐ声が楽しそうでいとおしかった。今でもラグナルは憎いわ。殺したいほど。でもあなたを殺したいとは思わない。ラグナルなのに殺せない。私は・・・私は・・・何のためにここにきたの?! 殺せない。殺せない!! あなたを!!」

 ラグーはそっとセイラのそばによると抱きしめた。

「かわいそうなセイラ。僕たちがそばにいるよ。もう一人ぼっちじゃない。一人ぼっちの悲しさも苦しみも僕は全部知っている。「私」は何千年も人間を憎んで一人で寂しかった。でもこのフェリアナとシャインが救ってくれた。今度は僕が君を救う番だ。一緒に暮らそう。僕たちと。そして未来の妻になってほしい」

 ラグーは最後の一言に驚きを隠せないでいた。また周りのシャインたちも呆然として聞いた。

「あ、いや。その。それは未来のことで。今すぐ花嫁とは・・・・」

 あわてふためくラグーにセイラはくすくすと笑い始めた。笑うことだろうか。ラグーは混乱した。シャインもフェリアナも村長もにやにや笑っている。ようやくそうなったかとでもいうように。

「いつかあなたの奥さんになってあなたを悩殺するわ。それで貸し借りなしよ」

「セイラー。そんな冗談は後にしてくれよ」

「あら。私は本当よ。ラグナルが倒せないならラグーを一生お尻にひいてあげる。私は一人じゃない。私には家族ができる。そういうことね? フェリアナ?」

 にやにやしながらもどこか不安げなフェリアナにセイラはにっこりわらった。フェリアナも微笑む。

「長男の嫁には最適ね」

「かあさん!!」

「責任は取るべきだ!!」

「とうさんまで!!」

 ラグーの悲鳴に近い声にセイラは安らぎを見出していた。殺したいとおもっていた相手を本当は愛していた。そのことに気がつくともう憎む気持ちは消えていた。妖魔の責任はラグーにはない。ラグナルにもないとわかった今ではもう憎むべき気持ちもなくなっていた。このやさしく暖かい家族の中にいたかった。自分の居場所を見つけたのだ。ダニエルへの愛はもう心の底に眠らそう。今はラグーがいとおしかった。命は差し出せない。でもやれることはすると真剣な目で言ってくれた。相手がまだ殺したいかどうかわからないうちに妻にしたいとまで言ってくれた。それでセイラの長年の苦しみは流れていった。空虚な心に暖かいものが満ち溢れていた。これが心の光なのか。今、セイラには奇跡が起こっていた。あんなに殺したい気持ちが愛したい気持ちでいっぱいになっている。ただ声を聞いていただけの相手に憎しみを覚えそして愛を覚えた。極端な話で勝手だろうが愛憎は裏返しなのかもしれない。

 セイラは愛を覚えていた。そしてそれを引き出してくれたのはラグーだった。

 

もう迷わない。私はラグーとともに生きていこう。

 

 セイラの心は晴れやかに澄み渡っていた。

 

 

 

 

 

| 銀のしずく 金のかがやき6 | 13:01 | comments(0) | - |

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