Alice in the sky 〜心の病と創作とたわいのない話〜

今後不定期となります。申し訳ありませんがよろしくおねがいします。申請で診断してもらったら否定型精神病とかかれてました。よく変わる。改めて心の病持ちでよろしくお願いします。スマホで書く日が増えるかも。
<< August 2019 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

銀のしずく 金のかがやき 蒼の天球 最終章 蒼の天球

JUGEMテーマ:ファンタジー恋愛もの

 

 

 

アンメリーに地図を解き明かしてもらいその間に出産の立ち合いに出くわした二人はやっとのことで塔の目の前に立っていた。馬はその辺につないである。見上げると雲の中に最上階は隠れている。

「この中に?」

「こんな塔に登るのー?」

「いやならあんたは来なくていいわよ」

 コロロとの掛け合いでやっと本来の強気な自分を取り戻していたエミリアはそういうと扉に手をかけた。どういった素材で出来ているのかわからないがひどく冷たい金属製であった。扉は手をかけると安易に開いた。中に入ってみる。中は抽象的なレリーフで飾られているだけだった。階段がある。

 聖獣であるフェジーはおとなしい。

「安全ってことよね・・・」

 エミリアはつぶやくと階段を一歩上がってみた。フェジーはすやすやとエミリアの懐で眠っている。

 二人は階段を上りはじめた。どれだけ上っただろう。いやというほど登って足が棒のようになっていてもまだ階段は続いていた。

「もうー。何階上がればいいのよー。このやくたたずの塔!」

 塔にあたっても仕方ないのだがなんとなくあたってしまうエミリアである。いつもはコロロがあたられているのでいらいらしだしたエミリアをちらちらと見てはいたが予想外の当たりにコロロ自身驚いていた。エミリアも少女から女性へと変わっているのだろう。この数週間でエミリアは驚くほど変わっていた。単に気が強い女の子から思いやる女性へと。まるでコロロが力強い男性へと変わっていったように。

「さ、行くわよ」

 ひとしきり塔にぼやくとエミリアはまた立ち上がった。足がこわばっているのをほぐしながらまた上がる。

 その根性は文系シャインにはないものだ。コロロはその比較にほんの少し愉快に思いながら後についていった。

 何時間たったであろうか。大きな扉が目の前に立ちふさがった。古代文字でなにやら書かれてあるがエミリアたちの時代の古代文字ではないさらに古い時代の、先人たちの文字だ。

 懐に眠っていたフェジーが目を覚ました。ふわり、懐から飛び出して宙に浮くとくるりと一回転した。するとそこには一本の角を生やした馬のような淡く発光した動物が立っていた。

「フェジー?」

 われを忘れていたエミリアはコロロの声でわれに返った。

『よくぞ。ここまできた。ここは私の領域。ついてくるがいい』

 不思議な声色でフェジーは語ると角を扉に押し当てた。扉が自然と開く。

 そこは庭、であった。

 四季折々の花が咲き乱れ、小川が流れている庭園。塔の最上階にこのようなところがあるとは思いもしなかった。天の国に庭園があればそんなかんじだろう。フェジーの誘導によってエミリアたちは庭を通り過ぎていく。

 幾分も行かないうちに大きな石版に行き当たったその先は道が続いているようだが石版が邪魔をして通ることは出来ない。

『ここに選ばれし少女の手を押し当てよ。わたしが力を貸そう』

 フェジーはそういうとぱちん、と姿を消した。と、思うと石版にほられた円形のくぼみにフェジーの色をした宝石のようなものがはまっているのに二人は気づいた。生きているかのようにゆらり、ゆらりと光る。声が聞こえる。

『わたしはこの楽園の護り。主に面会することを許す証にここにとどまる。少女よ。いや、エミリアよ。手をそこにおしあてよ』

 フェジーの声を聞いてエミリアはそこに手形があるのに気づいた。そっとおしあてる。

 だが、何も変化しない。

「フェジー?」

 不安そうな声でエミリアが問う。

『その先にある扉に向かうがいい。そこで天球と主が待っている。よき結果を・・・。わたしはここで待っている』

 フェジーの声を合図に石版が二つに分かれた道が現れる。エミリアとコロロはそっと足を踏み出した。聖獣に許されて歩く道。清らかな道なのだ。

 また扉があった。手形がある。これが鍵のようだ。またおしあてる。静かに扉が開き二人は入るとそこには四角い台の上に蒼い球体がふわりふわりと浮いていた。その台座にも手形がある。

 エミリアはまた手を当てた。台座の上には何か透明な板で覆われていたがそれが台座にするりとおさまり天球を直接手にすることが出来るようになった。

 そっとエミリアは手を出した。触ったとたんに何か悪い出来事が起こる、そんな予感もしたがフェジーの守ってきたものなのだ。きっといいものに違いない。言い伝えは悪いように伝えていなかった。大丈夫。エミリアはよぎる不安にも耐えながら手にした。

 が、何も起きなかった。発光していたものは急に光を失い重い球体へと変化した。

「あたしが触ったからだめなの? あたしの力ではなにもできないってこと?」

 明らかに動揺した声でエミリアがうろたえた。

「エミリー」

 コロロがやさしく声をかける。

「だって、さっきまで光っていたじゃない。きれいに。あたしがさわったとたんただのボールになったじゃない。何か間違えたのよ。ううん。あたしがまちがって選ばれたんだわ。本当はもっと純粋でかわいい女の子が・・・」

「エミリー」

 今にも天球をほうりださんばかりにうろたえるエミリアのほほをコロロは軽くはたいた。

「エミリアが悪い女の子ではないのは誰でも知っている。自信持って。何か方法があるんだよ」

「コロロ・・・」

 エミリアの瞳にたまっていた涙が一滴天球に落ちた。ぱぁぁっと光り始めた。

「何? 何が始まったの?」

 エミリアはコロロを振り返ろうとしたがそこにはコロロはいなかった。

「ここどこ? コロロ? フェジー?」

 エミリアはコロロとフェジーを必死に探し始める。胸に天球を抱えて。そこへ一人の青年がやってきた。

「ようやく来てくれましたか。何千年もまっていたかいがありました。あなたのようなかわいい乙女に出会えるとは幸運です」

 にこやかに蒼い髪をした青年が話しかけてきた。エミリアはとっさに警戒する。

「おっと。そんなに驚かないでください。フェジーの主です。ずっとあなたのような方をお待ちしておりました」

 うやうやしく腰をかがめるとエミリアの手をとって甲に口付ける。

「コロロはどこ? フェジーは?」

「フェジーは私の持ち物。コロロ君は先ほどあなたのいた部屋でお待ちです」

 にこやかに答えるがエミリアには納得がいかない。

「すぐにコロロのところへ返して。天球はもういただいたわ。あなたに会う必要はないわ。本にもそう書いてあったもの」

「それは後のものたちが書き加えるのを間違えたのです。あなたはこれから私に手を貸すことに決まっているのです。先ほどの清らかな涙で天球は発動し始めました。これで念願の望みがかなうのです」

 エミリアはわからないといった風の表情を浮かべた。

「この天球は平和なときを作るのではないの?」

「もちろんそうですとも。私の望む平和を作るのですよ」

 エミリアの中で小さく点灯していた警戒が大きくなる。

「あなたの? 私たちの、ではなく?」

「頭のよい乙女だ。そうですとも。この世界を牛耳るあの四神にはむかうのですよ。この世界を一から作り直すのです。私の思い通りの、ね」

「四神って。最後の裁きの・・・」

「おや? ご存知でしたか。そうですとも。私を差し置いてやりたい放題の彼らに私の力を指し示すのですよ。天球を作ったおかげで力が半減していましてね。天球を作ったのはいいけれどもあのフェジーが余計なことをして純たる乙女の涙にふれなければ発動できないようにしたのです。自ら鍵の役になってまで何を考えたのやら・・・」

 はぁ、と青年はため息をつく。エミリアは信じられないような瞳で青年を見つめた。

「私は八百神の中でももっとも忌み嫌われている神の一人ですよ。私が天地を握るつもりだと知った四神がここに封じ込めたのです。多少の自由はあれどこんなところに一人住まわされて何の喜びがありましょう? さぁ、さっさと念願をかなうところを見せてください。天球はあなたがここから落とせばすべてを消し去ります。そう。すべてをね」

 ふっっと青年は笑う。だが、そこには狂気が宿っていた。どうしてそんな悲しい目をしていしているのか、とエミリアは悲しくなった。が、気力を奮い立たせる。

「いやよ」

 エミリアを連れて行こうとした青年の手が止まった。

「あたしはこの世界を守りたくてここまで来たのよ。どうして滅ぼすために力を貸さないといけないの? やるならあなた一人でやればいいじゃない」

 きっとにらんでエミリアは怒る。

 こんな、こんな自分勝手な神のために自分は利用されたのだ。なぜ、フェジーが自分を選んだのかわからない。小さな失望が胸に広がっていく。

「もうそれは発動してしまっているのですよ。早く役目を果たしてやるべきです」

「こんなもの・・・!」

 落として割ろうとした矢先青年が手を止めてた。きつくつかまれた腕が痛い。

「これをごらんなさい」

 空いた片手をさっとひとふりすると光景が映し出された。

 先ほどまで同じ部屋にいたコロロ。廃墟で待っているバース。その帰りを待っているアンメリー。彼らはみな固まっていた。土と化して。

「こうなればあとは崩れるしかない世界です。いっそ私たちで新しい世界を作り直すほうがどれほどいいか」

「うそよ。こんなのうそ!」

 見せられた光景にエミリアは泣き叫んだ。大事な人たちがすべて土と化しているなど信じたくはなかった。発動するとはこういうことなのか?

「世界中がもう土と化しました。あなたの道はただ1つ新しい世界を作ることだけ。あの忌まわしい創造神たちにはむかうのです。こんな不条理な世界を作り出した彼らに」

 エミリアはがっくりと肩をおとしてしまった。だが、とまた勇気を奮い立たせる。

「あたしの大事な人たちがたとえ土と化しても新しい世界を作るためにすべてを滅ぼすなんて誰も望んでいない。あたしはここで死ぬまで天球を守っているわ」

 そういってエミリアは地面に座り込んで天球を抱え込んだ。涙がひっきりなしに出てくる。あんな世迷言を信じたばかりにこんなことになってしまった。

「ごめんね。コロロ・・・」

 今まで尽くしてくれたコロロのことが頭に浮かんでは消え、また浮かんでは消えた。

 今、このときになってエミリアは悟った。自分はコロロが一番大事だったと。誰よりも一番大事に思っていたと。いまさらになって愛しているなんて都合がよすぎる。

「馬鹿なあたしね・・・。でもいつか言ってあげるから。絶対に死なせない」

 エミリアはつぶやくとまた立ち上がった。きっと青年をにらみつける。コロロ姿を胸に秘めて。

「早く、みんなを元に戻して。少なくとも神様なんでしょう? 元に戻すことぐらい出来るわよね? 天球はこれから「滅ぼすためにだけ」作られた。周りをそんな風にするためにつくられたわけではないわ。あなたのせいよね?」

 鋭いエミリアのつっこみに青年はぐっとつまった。確かに発動は始めているがそれは滅びの一歩であって土と化したのは自分の力のせい。

「はやく。もどしてくれないと、これを落とすわよ」

 強気に出たエミリアは天球を頭上高く持ち上げた。

「やめてくれ!」

 青年が叫ぶ。

「わかった。元に戻す。だから・・・」

 青年がなにやらつぶやく。

「もう時は動き出した。心配ない」

 青年は青白い顔をしていた。

「あなたのような強い乙女の存在を考えておくのを忘れていましたね。フェジーが選んだのは私にはむかうつもりだったのですね・・・」

 寂しそうな声にエミリアは慰めたくなった。

「そうかもしれない。でもあなたに間違ったことをさせたくなかったからあたしを選んだのよ。あなたもこんなところで一人寂しくしているよりもあたしたちと一緒に帰りましょう。フェジーもみんなのところへ。神を捨てて人間になることは出来ないの? あたしは思うんだけど平和なときをつくるのは自分達だと思い知らせるためにあんな伝承を作ったのよ。書き換えたのね。だからあたしはみんなと平和な時を作りたいの。もちろんあなたとも・・・」

 突拍子もないことを言い出したエミリアの言葉に青年は笑い出した。

「これは酔狂なことを・・・。おなかがよじれます」

 彼はひたすら笑うとじっとエミリアを見つめた。

「私とともに人生を歩んでくださるのなら・・・。あなたのような女性なら人生を託してもいいでしょう。彼らが捕らえておきたいのはいかがわしい神の私。人間になればここを出られるでしょう・・・」

 おあいにくさま、とエミリアは意地悪げに言う。

「あたしには心に決めた人がいるの。あなたには誰かみつくろってあげるから。そうね。最初に名前を聞かないと。あたしはエミリア。あなたは?」

「私は・・・・」

 勝気なエミリアに負けた青年はしかたなさそうに名前を告げた。だが、その顔はうれしそうで晴れやかであった。

 

「ようぅ。エミリア。ずいぶんきれいになったなぁ。もう嫁に行くのか・・・」

 シャインが息子を肩車しながら花嫁の下へやってきた。

「ってあんたのほうが先に婿に行ったでしょう?」

 つん、とエミリアはそっぽを向く。

「まぁな。でも本当にコロロでいいのか? 俺は少し心配だ」

 眉間に眉を寄せてシャインが語る。

「いいでしょう? コロロならあたしがどんな風にしても文句1つ言わないでやさしくしてくれるわ。シャインと違ってね」

 自慢げにエミリアは言う。

「豪気な嫁さんだな。さすがは神さん一人連れ帰るだけのことはある」

 そうなのだ。エミリアは孤独に閉じこもっていた神をつれて帰ってきた。裁きの一件で四人の神たちはもう彼をそこに閉じ込めているつもりはなかった。それを彼は知らなかっただけなのだ。ラサ、ルサたちは人間の時代だという。それなら神である事を捨てれば万事かまわない。強気なエミリアの押しもあって青年は外へ出た。閉じ込められていないことに少し驚いた。考えが変わっていく様をエミリアは楽しそうに見たものだ。そこへコロロの嫉妬が思いっきり青年にぶつけられ悲惨な形になったのは言うまでもない。この顛末はシャイン、フェリアナ、バース、アンメリー、クーグル兄弟、コロロとエミリアしか知らない。フェジーも知っているがもう小さな動物に戻って話さないので誰も村のものは知らない。青年は普通の人として生きるつもりで塔すべてを破壊した。すべての神の力を振り絞って。彼は今、花屋の娘と交際している。美しい娘に鼻を伸ばしているのが高慢な神だったときと違ってエミリアはいつも笑いを誘われるものだった。

「エミリー」

 コロロが近づいてきてエミリアを腕の中に確保した。それを見てシャインが爆笑する。

「いくら今日のエミリアが一番べっぴんだとしても俺にはフェリアナがいるんだ。心配することねーだろうが」

「わからないね。シャインのような人間には何が起こってもわからないからね」

 相変わらずの敵対心にエミリアは微笑う。

「あたしが世界で一番愛しているのはコロロ、あなたよ」

 そういってほほにキスするとコロロはとろけたような表情でエミリアを見た。

「僕もだよ。エミリー。幸せになろうね」

 やってられんわい、とシャインが立ち去っていく。

 平和なとき。それは自分自身で作っていくもの。あの時青年と語り合ってわかった事実。

 守って見せるわ。私たちの未来を。

 そんなエミリアをまた小さくなったフェジーがじっと見つめていた。

 

蒼の天球完結

銀のしずく 金のかがやき4 | comments(0) | -