Alice in the sky 〜心の病と創作とたわいのない話〜

今後不定期となります。申し訳ありませんがよろしくおねがいします。申請で診断してもらったら否定型精神病とかかれてました。よく変わる。改めて心の病持ちでよろしくお願いします。スマホで書く日が増えるかも。
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銀のしずく 金のかがやき 乙女の涙 第八話 乙女と涙後編

 

 

 フェリアナたちは再びカイルの屋敷に戻っていた。アンテと入れ替わるために。フェリアナなら夜にまぎれてこっそり入るぐらいはできるのだが途中で気になって立ち寄ったところアンテはやはり入れ替え計画を進めていたのだった。強盗に襲われてあのやんちゃぶりはなりを潜めたかと思われたが結局、のどもと過ぎれば暑さ忘れるというところか・・・。 けろりとしてカイルの屋敷に入り浸っていた。

「で、フェリアナはメリーと一緒に王都に戻るの。そしてこの札を使って図書館に入るといいわ。これは王族専用の鍵よ。これを禁帯出本のさらに奥の部屋に行くときに使うの。まさかこんなものが役に立つなんてね」

 アンテはぺらぺらな木でもない、だからといって陶器でもない。まるで見たことのない物質でできた札をふってみせた。それはアンメリーが入っていた「セイメイイジソウチ」に使われていた膜を硬くしたようなものだった。

「ま、王宮の暮らしでも堪能したら? 愉しいかもしれないわよ。私は退屈だけど」

 アンテはそう言ってカイルにひっつく。

「えらい気に入りようだなー」

 ほえーとシャインが言う。

「だってこれから私はフェリアナとしてカイルの家にいられるんだもの。こんなにうれしいことはないわ。ね? カイル」

 若い娘に言い寄られてもカイルの心は一人の女性にささげられている。その隙間をアンテは埋められるのだろうか? フェリアナは少しアンテが哀れに写った。その事実をアンテは知らないのだから。

「ちぇっ。俺はエミリア版フェリアナと一緒か」

 シャインが面白くなさげに言う。

「ごめんね。シャイン。でもここから先は一人で解く問題なのよ」

「ああ。わかっている」

 シャインは信じているよ、と目でフェリアナに伝えていた。ありがとうとフェリアナも目で返す。

「お熱いこと」

アンテの言葉に赤面する二人だった。

 そんなやりとりのあと一行は王都に戻ってきた。フェリアナとメリーは王宮へ。シャインたち残りはクーグル邸へ。カイルが戻ってきたのを見てアベルは驚いたがアンテの入れ替わりを聞いて納得したようだった。

「アンテ様を一人にしておくわけにはいかないからね。兄さんにも春がめぐってきたか」

 うれしそうにアベルがいうとカイルは赤面してアベルをにらみつけた。

 一方、フェリアナは王宮に入るなりすぐ行動に移った。メリーが少ししてからと言ったが、反王権行動となるかもしれないのだ。首がちょん切られる前に片付けたかった。それにこんな豪勢な世界は別に要らなかった。面白いといえば面白いが毎日こんな生活する気にはなれなかった。早くシャインの元へ帰りたかった。愛する人がいない生活なんて今のフェリアナには無価値に等しかった。アンテもそうなのだろう。それが子供じみた恋であっても。

 フェリアナはメリーとともに図書館に向かう。仰々しい王宮の服は重たくて移動しにくい。何度ぬぎすててやろうかと思ったが今の自分はアンテなのだ。しかたなくしずしずと図書館へと行った。アンテから渡されている札を示す。職員はあわててアンテの対応をし始めた。大げさな対応振りに辟易したフェリアナはメリーを一人残して早速禁帯出本の部屋に入った。その奥にさらに部屋がある。その部屋に入るために札を入れる場所があった。すっと入れると扉が開いた。これもこの世界が生まれる前の技術なのだろうか。この世界の前にもうひとつ栄えた世界があった。だが、何の理由か知らないが滅亡してしまった。その最後の生き残りがアルディスという大陸に眠っていた。彼女は今、バースという船長の妻である。そんな彼女が生きていた世界の異物なのだろうか。その奥の部屋も本棚でいっぱいだった。だが、カイルの見せた地図のあたりの本棚を指でなぞっているとそこにも突起があった。そこをかちっと押す。すると機会仕掛けの音がして本棚が動いた。階段が下に続いている。ぽっぽっと自動的に足元を照らす明かりがつく。

 これは本当にアンメリーの世界の異物かもしれない。なんとなく畏怖感を抱きつつ階段を下りる。

 深い階段を降りきるとまた扉があった。そこにはよっつのくぼみがあった。フェリアナはボタンを取り出すとひとつひとつ色に合わせてはめこんだ。赤、青、黄、緑。すべてがかちっとはまったとき、扉がすっと開いた。

 そこには足首に鎖をつけられた男性がいた。何もかも絶望した面差しで男性はうずくまっていた。フェリアナの足音を聞いて振り返った男性の顔に希望の光が差し込んだ。

「ああ。来てくれたのですね。乙女よ。いえ、女王よ」

「やはり私は古の王家の血を引いているのね。両親は違ったの?」

「それはわかりません。長い間私はここに閉じ込められていました。アカデミーがあるころはみな私と愉しく時間を過ごしたものです。古の秘術を守りながら」

「古の秘術とは何?」

「これです」

 男はするすると白い一角獣に変身した。

「私自身が秘術であるのです。この私に触れることができるものだけが正しい王家の継承者です」

 一角獣は満足げに答えた。

「さぁ、女王よ。私に触れてください。あなたのお力でこの世界を私たちの元の世界に戻しましょう」

 一角獣の言葉にフェリアナはいいえ、と首を横にふった。

「私にはもう帰るところも待っている人もいる。私は権力なんて要らない。力なんていらない。思い知らされたわ。力がどれだけ人を傷つけるのかを。いまさら特別な力を持っても今の人々は救われない。あなたが満足するだけよ?」

 フェリアナの言葉を聴いたとたん、一角獣は顔をゆがめた。

「なんというお言葉。一国の女王の言葉ではない。あなたはこの国を幸せにできるのですよ?」

「幸せって何? 人々は一生懸命、今を生きているわ。それだけじゃだめなの? 私だって今は幸せよ。大事な人たちと一緒にいられるから。小さな幸せを大事にできなくて大きな幸せを大事にできるの?」

 フェリアナはそういって一角獣の鬣をなでる。

「だからあなたを解放して自由になりましょう。そうすればあなたも・・・」

「違う!」

 一角獣はその首をひねってフェリアナの手をはじいた。

「私たちはこれから国を作るのです。そうでなければならない。私は王家に仕えるためだけに生まれてきたのです。王家がなければ私はいらない」

「そんなことはないわ。きっとあなたを必要とする人ができるはず。こんな陳腐な言葉しかないけれども・・・」

「あなたというひとは・・・。せっかく見つけたと思ったのに・・・」

 一角獣の顔がゆがんだ。まるでフェリアナを憎むかのように・・・。

 それと間髪いれず、真っ白だった一角獣の体は徐々に黒くなり始めた。

「おお。一体どうしたのだ。この体の痛みは。ううっ」

 一角獣は顔をしかめて床にうずくまった。フェリアナには彼に何が起こったのかなんとなくわかっていた。一角獣をの憎しみを沈めるために深い愛情を注いで言葉をつむいだ。

「落ち着いて。今、あなたに憎しみが生まれたの。裏切られたという思い。そして信じられないという思い。そんな負の感情がすべてあなたの神聖なる気を悪に変えてしまったのよ。さぁ。落ち着いて。あなた自身が幸せになる方法を思うの。大空の下で駆け巡ったり、草原で寝転んだり・・・。ほんの小さな幸せを思い描いて・・・」

 フェリアナはやさしく一角獣の鬣をなでる。だが、黒い色は徐々に一角獣を蝕んでいく。

「早く。想いを変えるのよ。もう仕えなくていいの。あなた自身の人生を歩むの」

 フェリアナは焦った。だが、うう、と一角獣となった男性はまだうなっている。痛みがどんどん増していくようだ。意識が朦朧としている。瞳に力がない。フェリアナは祈った。

 お願い。安らぎの宝玉よ。もしまだ力があるなら今すぐこの人を救って・・・!

 必死で祈るフェリアナの両手の間に金の光が凝縮されていく。しだいにそれは球体となって現れた。

 フェリアナはそれを見ては祈る。

 どうかこの哀れな人をお救いください。この人に安らぎを与えてください。

 時間は刻々とたっていく。だが、一向に事態は好転しない。

 だめなの?

 フェリアナのほほに涙が伝った。

 その涙が一角獣の体に落ちた。一度落ちればすぐにぽたぽた落ちてくる。死神一族一の強いフェリアナが今、涙を流していた。

 それは悲しみの涙。悔しさの涙。優しさの涙、だった。

「おお。乙女よ。泣かないでください。私のために泣くなど・・・」

 一角獣が驚きの声を出す。でも!、とフェリアナは声を上げた。

「でも! 何もできないなんて悔しい!」

 フェリアナの悲痛な叫びが空間に響いた。その一声が一角獣を変えた。

 憎しみの表情が消えた。安らいだ表情が一角獣の顔に広がっていた。

「やはりあなたは女王だ。慈悲深き女王よ。あなたの想いで私は天に帰れる。天に帰って今度は普通の人間として生まれ変わってきましょう。あなたの祈りは私に届きました。もう一度やり直します。次に会うときはお互い幸せになっていることを祈りましょう」

 すぅっと一角獣の体が消え始めた。それを見てフェリアナは驚く。

「どうして? 安らぎは今、与えることはできないの? 現世に与えることは?」

 一角獣は静かに首を振った。確かに安らぎの宝玉は安堵の道へと導く。いつの日だったかシャインの命も救った。だが、今回はだめなのだ。長い間拘束されていた魂は安らぎを求め、天へと戻ることを決めたのだ。

「今、私はとても幸せです。私のために貴重な涙を流してくださった。それだけで十分です。さようなら。乙女よ。また会うときまで待っていてください」

 一角獣の姿はもう半透明になっていた。体が段々天に向かって浮いていく。

 待って!とフェリアナは叫ぶ。

「あなたの名前はなんと言うの?」

「ハルナ・・・です」

「ハルナ・・・絶対に、絶対に忘れないでね!」

 フェリアナは叫ぶ。

「ええ。乙女よ。乙女の涙を私は一生忘れません」

 それだけいうと一角獣の姿は空気に溶け込んだ。

 

「きれいだよ。フェリアナ」

「ありがとう。おばば様」

 きれいに着飾ったフェリアナをルサは見つめる。

「大変な旅だったろう。これからはここで平和な時間をすごしておくれ」

「はい。おばば様」

 フェリアナは結婚式会場に足を運ぶ。そこにはシャインとラグーが待っているはずだ。フェリアナの姿を見つけたシャインの顔がぱぁっと輝いた。フェリアナも同じだった。顔中に笑顔が広がっていく。

 失ったもの。それは過去。だけど過去がなくても今があれば生きていける。今を大事に生きていけばきっと幸せな未来が待っている。例え、つらく厳しい道のりがあっても。

 ようやくつかんだ未来への道。フェリアナはシャインの元へ歩いていく。これから待ち受けている未来の道の確信へと。楽しい家庭を築こう。フェリアナの心は未来への気持ちであふれていた。

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