Alice in the sky 〜心の病と創作とたわいのない話〜

今後不定期となります。申し訳ありませんがよろしくおねがいします。申請で診断してもらったら否定型精神病とかかれてました。よく変わる。改めて心の病持ちでよろしくお願いします。スマホで書く日が増えるかも。
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銀のしずく 金のかがやき セイント 最終話セイント

JUGEMテーマ:ファンタジー恋愛もの

 

延々と坂道が続いている。山なのだから当然であるのだが、シャインはこの自然にいたく腹を立てていた。

「なんだってこんなに坂が続いているんだよ!」

 ついつい心の呟きが外に出る。が、それに答えるものはいない。フェリアナはきっとライルの手で村に戻る道中だろう。そう思うと悔しくなってくる。プロポーズしておきながらそれを全うできない自分がいやだった。約束を守らないのが一番シャインの中でいやなことだった。あの気持ちに嘘はない。だが、約束を違えてもフェリアナを失いたくなかった。二度と一人で闇に投じさせることなどさせたくはなかった。

 一人、山道を歩いていると走馬灯のように知人の顔がちらつく。

 フェリアナ、クーグル兄弟、バース夫妻、村の面々。ぐるぐる顔がめまぐるしくまわっていく。

「俺死ぬのかなー」

 死ぬ瞬間に人はそういう体験をするという。もしかして予感かもしれない。それでも愛する人を守るためにはなんとしても魔王とのことは自分でけりをつけたかった。あの試練のときは仲間がいた。だが、今は一人だ。ふと寂しさが胸を突いた。するどく、深く。

 フェリアナ・・・。

 愛おしい恋人の名をつぶやくとまたシャインは山を登り始めた。

 そしてようやく山の中腹のところまでやってきた。

「げーっ。まだあるのかよ・・・」

 食料は底がついた。ほとんどのものはフェリアナが管理していたし、自分も最小限のものしかもっていなかった。最初のころに食べていたお菓子はとっくにない。

 ふらふらとまた歩き始める。

 いきなり風が通り過ぎて行ったかと思うと声が降ってきた。

「とろとろ歩くんじゃないわよ!」

 その声がシャインの耳を通り過ぎていったが、誰の声かを認識する前にシャインは相当長い時間を費やした。とはいってもほんの数秒であったが。通りすぎた馬が馬首を翻して戻ってくる。フェリアナが馬から飛び降りてきて馬はそのまま山を駆け下りていった。

「フェリアナ?! どう・・・」

 

パチン。

 

フェリアナのかわいらしい手がシャインのほほを打っていた。

「よくも私をだましたわね! このつけは一生払ってもらうわよ」

 最後のせりふを照れながらフェリアナが言う。

「ゆるして・・・くれるのか?」

 シャインが話し終わるよりも早くフェリアナがまくしたてる。

「許すも何も・・・。私はシャイン、あなたを愛しているのよ。許さなかったら一生後悔する。私たちは二人で一緒よ」

「ってライルが一緒にいたはずだろう?」

「ここにいる」

 馬上からおりてきてシャインはぎょっとする。そしてライルはお手上げだという具合に両手を上げた。

「フェリアナには参ったよ。目が覚めるや否や、馬を買って全力疾走でここまで来るんだからな。よく馬が持ったもんだよ。二人には負けた」

「そうか・・・悪いな」

 シャインの受け答えにフェリアナは不思議そうに首をかしげた。

「男同士の暗号」

 シャインはあっさり言ってすっとぼける。ライルも黙秘を続けるらしい。フェリアナも追及する気はならなかった。それにしてもフェリアナはライルの好意には気づいていないらしい。彼が哀れというかなんというか・・・。

「で、これからどうするの?」

 フェリアナがたずねる。

「馬・・・せめてたずなぐらいは引いていてほしかった・・・」

 シャインはがっくりする。ライルも馬を手放していた。

「馬なんてどうでもいいじゃないの。山頂にいくつもりだったの?」

「だって、フェリアナがシナイ山にいるって言ったんじゃないか」

 そうだけど・・・。フェリアナは思案げな表情を浮かべる。内心、シャインはどきどきしていた。いつ魔王が出てきてフェリアナを殺してしまうかと。フェリアナを失うのは一度でたくさんだ。

「くそ。どうやったら魔王のところまでいけるんだよ!」

 シャインは腹立ち紛れに光の剣を地面に突き立てた。

 ゴゴゴと地鳴りがして地面が割れた。

 地が割れ、また階段が現れた。魔王は本当に地底にいるらしい。

「神様というか魔王さんは地下がお好きなようだな」

 以前の試練のときを思い出してシャインはつぶやいた。あの時は大陸が海中より現れ、その大陸に階段が出てきたのである。今回もほとんど同じ展開である。芸のないことだ、シャインは思う。

 思いながらも敵だと思いながらも、シャインは階段を降り始めた。とめても無駄な様であるフェリアナとライルも続く。暗闇に入った。上下左右もわからぬ闇。何でできているのだろうか。シャインは不思議に思う。

 フェリアナはどこだろうか? こう暗いとわからない。手を伸ばすと手がぶつかった。

「フェリアナ?」

 シャインはたずねた。

「シャイン!」

 震えているフェリアナの手が握り返してくる。彼女の手に婚約指輪がかろうじてはまっていてくれたおかげで認識ができた。残るライルはどこにいるかわからない。

 シャインは漆黒の闇に向かって話しかけた。

「おーい。魔王さんよ。どこにいるんだ? 呼び出したからには用があるんじゃないのか?」

“私はここにいる。光の勇者よ。・・・目覚めねばよかったのに”

 苦しさを秘めた声にシャインは驚いた。

「俺だって好きに目覚めたわけじゃない。だけど何かあるんだな? 光と闇に」

“ああ”

 とまたどこかで答えが返ってくる。

“光と闇は一対のものだ。お前がその女と対になったのも事の理。あらかじめ定まっていた。最後の審判は序の口だ。これからさまざまな試練がお前を待っているだろう。私もお前も光と闇に思うように動かされているだけなのだ”

 やーだね、とシャインは却下する。

「俺はフェリアナと結婚してふつーに生活するんだ。もう伝説だの聖なる力など要らない」

 少し相手が動揺したとシャインは感じた。光の剣が相手の気持ちを教えてくれる。

“セイント。お前は愚者であり聖なるものなのだな。お前のその心にはその少女たちが住んでいるのだな。うらやましいことだ”

 ため息が聞こえてきてシャインは不思議に思った。

「おい。いつまでも隠れていないで出て来い。いくらでも切り刻んでやるぞ」

“私は人型ではない。この空間が私だ。だが、確かにわかりづらいな。人型になろう”

 シャインとフェリアナの前に長身で長い白銀の髪を流した青年が現れた。

「あんたが魔王? ちっともらしくないじゃないか」

「らしくない、か? お前は特に拍子抜けさせる馬鹿青年なのだな。私がどんなものか見せよう」

 魔王が手を伸ばすと青白い炎がシャインのほほをかすった。ほんの少しシャインのほほを焼き、ひりひりとした。

「こんな魔法使い野郎と光の剣ではあんたの方が勝ちそうだな。前の勇者はどうやって眠らせたんだ?」

 シャインの間の抜けた言葉にさすがの魔王も毒気を抜かれてしまう。緊張していた場が和む。まるで魔王研修の一環のようである。

「お前は面白い。かつてのどの光の勇者よりも。愚者でありながら聖なる力を持つものよ。私を倒せ。そして伝説を作っていけばよい。私は疲れた。もう長きにわたってこの闇で暮らしてきた。もう十分だ。私に休息を与えよ」

「って殺れってことか? そんなつもりで来たんじゃない。用事に呼び出されただけだ」

「それは部下が勝手にしたことだが・・・。今ならこの時がまともに思える。これが用事だ。お前の覚醒した力を使えば私は粉々になるだろう」

「でもあなたが死んでも次の魔王が生まれるわ。だって光と闇は対ですもの」

 フェリアナが口を挟む。

「それでも私は疲れた。さぁ、殺せ」

「部下たちは納得しているの?」

 またフェリアナが問う。

「そんなことは気にしていない。勝手な動きをしているようだが・・・」

 どうせなら、とシャインは言い放った。

「魔王をやめちまえ。あとがまはあとからやりたい放題させればいいさ」

「そのたびにお前が借り出されることになる」

「じゃぁ、こうしろよ。俺たちの家族になって裏から治めれば?」

 あっけらかんというシャインに魔王は苦笑する。

「統治はそう簡単ではない」

「とりあえず疲れているなら魔王をやめるのを進める。それからどうするか考えればいい。魔王の力なら子供の姿に変わることもできるだろう? 俺の子供として鍛え上げてやる」

 その突拍子もない案に魔王もフェリアナもあっけにとられた。フェリアナはぽかんと口を開けてしまう。

「お前、寂しいんだろう? 一人でいろんなもん抱えて。信頼できるものがいなかったんじゃないのか? だから眠っているほうがよかったんだ。起こされるのは余計なお世話だった・・・ってところだろう?」

 その指摘は間違っていなかったので魔王は苦笑するにとどめた。

「なぜ、私が寂しいと?」

「感じるんだよ。今、俺は光の剣と一体になっている。お前のその額に飾られているサークレットともつながっている。聞こえて来るんだよ。子供の声が。寂しい。もういやだって・・・な」

 魔王はふうとため息をついた。

「セイントは私より一枚も二枚も上手だったか・・・」

 魔王はそう言ってサークレットを取り外した。ことん、と床に落ちる。それは魔王が魔王をやめるという意思表示だった。

 そして彼の体はするすると小さくなっていく。来ていた服はいつしかぶかぶかになってしまった。

「じゃぁ、兄ちゃんと帰ろう」

「ああ」

 魔王、いやラグナルが大人びた口調で返事を返してきてシャインはずっこけそうになった。

「子供は子供らしく「うん」と言え」

「うん」

 一応いってみるものの違和感がある。

「こりゃ道中特訓しなきゃな」

「特訓?」

「そうだ。子供として生きていく練習。そして少しずつ成長していけばいい」

「大人になったら?」

 もうすでにラグナルは子供らしい声を出していた。飲み込みは早い。

「それこそ好きなようにするといいさ、お前に必要なのは愛と幸せ。孤独な心を埋めるものだ。それが埋まれば自然と方向が決まる」

 シャインが言い切ったときライルの声が聞こえた。

「卑怯者! われわれをだましたな。ラグナル! 俺は信じていたのに!」

 ライルは手に短刀を持っている。シャインに言いくるめられていく魔王が信じられなかった。もっと強いものだと思っていた。闇の帝王としてこれから君臨し、悪の帝国を築くと信じていたからだ。ライルはもう心のそこまで悪にそまっていた。ラグナルに向かってライルは突き進む。それをシャインはかばってラグナルを抱きしめた。ずん、とライルの短刀はシャインの背中に突き刺さった。

「いってー。というか熱いな。血が出ているのかな・・・」

 意識が朦朧とする中でシャインがつぶやく。

 なぜ、とラグナルはつぶやく。自分をかばってもらう立場ではない。

「ラグナルはもう俺の家族だ。そしてフェリアナに今度は俺が矢面に立つと約束したんだ。ちゃんと約束守れたようだな・・・」

 それだけ言ってシャインは意識を失った。抱きしめていた腕がだらりとさがり、体重がラグナルにかかってくる。支えるのが必死だった。フェリアナがかけつける。剣を抜こうとしてためらう。今、抜けば出血多量で死んでしまう。

「どうしたらいいの? シャイン・・・あなたがいない世界なんて・・・」

 フェリアナのほほに涙が伝う。

「案ずるではない。ゆっくりと剣を抜け。私の力で傷をふさぐ」

 フェリアナは一瞬逡巡したが先ほどのやり取りを見守っていたフェリアナだ。すぐに承諾した。

「あなたを信じるわ」

 フェリアナは決心するとゆっくりと短剣を抜き始めた。ゆっくりゆっくり抜いていく。ライルのことなど頭になかった。まずはシャインが助かってからどうでもなればいい。

 過激なことを考えながらフェリアナはゆっくり抜いていく。長いのか短いのかわからない時間がたって短剣すべてがすっとシャインの体から抜けた。

「フェリ・・・?」

 意識もうろうとなりながらもシャインはフェリアナの名を呼んだ。

「よかった。生きているのね」

 フェリアナはシャインを抱きしめた。その後ろでライルがうわーと奇声を発した。ラグナルが罰を与えたのだ。

「お前はここから出ることはかなわぬ。命尽き果てるまでこの闇にいるがいい。セイントを汚すことは誰にも許されぬ」

 そしてフェリアナのほうをみて笑顔を見せた。

「さぁ、地上に戻ろう。私を特訓してくれる約束だったな?」

 ええ、とフェリアナもにっこり笑う。かつて安らぎの宝玉を手にしていたフェリアナもラグナルの孤独な心を感じていた。そして今、またシャインを助けることで新たな絆が生まれていた。

「ちょっと私たちには大きな子供だけどね」

「それでもいいと彼が言っているのだからいいのだろう。セイントにははむかえぬ」

 

 セイント。

 

 それは愚者でありそしてその真っ白な心を持つ聖なる者。セイントの力を目にしたものは誰もが従うという。シャインはセイントとして目覚めた。これより来る試練を何度も乗り越えていくのだろう。だが、シャインは変わらない。情けなくそして少しだけ頼れる存在としているだろう。フェリアナもラグナルもそのことを理解していた。

 

「おーい。ラグー、そこらにいたずらするなよ。エミリアがヒステリー起こすからな」

 エミリアの結婚式に来ていたラグナルことラグー、はシャインの家族として暮らしていた。特訓のおかげで今は普通の子供と変わりない。ラグナル自身も自分の力を封じ込めてしまった。今は一人の人間として生きている。数千年のときを得てラグナルの心は安らかに満ちていた。愛と幸せが彼の心を満たしていたからだ。

「わかっているよ。父さん」

 言った先からグラスがガチャンと落ちた。

「お前、今月の小遣いなしだからな」

 ええっーとラグーは声を上げる。

 奇妙ではあるが愛ある家庭がそこにあった。フェリアナももうすぐ子供をうむ。ラグーは兄になる。ラグーは楽しみにしていた。どんな家族が増えるのかと。

 セイントとその家族はこれからも幸せに暮らしていくだろう。多少の試練を乗り越えて。

 シャインの真っ白なキャンパスにはさまざまな知り合いの顔で満ち溢れていた。だが、まだ真っ白な部分が残っている。セイントとしての領域が。そこが壊されない限りシャインはセイントなのだ。

 

 聖なるかな。万物に恵みあらんことを・・・。

 

 セイント完

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