Alice in the sky 〜心の病と創作とたわいのない話〜

今後不定期となります。申し訳ありませんがよろしくおねがいします。申請で診断してもらったら否定型精神病とかかれてました。よく変わる。改めて心の病持ちでよろしくお願いします。スマホで書く日が増えるかも。
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第二章黒の森 

 
太郎と出会ってから都は旅を続けた。同じような道をてくてく歩く。歩く人数がだんだん増えていく。やはり「黒の森」、そこが救いの場所になるのか。だが、同時に危機感を都は持っていた。大勢が集まるところだけが真実ではない。都だけに知りえた真実だった。なぜなら・・・・。
 
 なぜなら。
 
 都には力があったからだ。サイコキネシス。そういえば通じるであろうか。都は手に触れず物を動かすことができた。そして聞こえないはずの声を聞く能力。テレパシー。ただ人の心の声が常に聞こえるわけではない。そうなればとっくに気がおかしくなっていたであろう。突発的にその相手の想っている言葉が聞こえてくる。これもあまり気持ちのいいものではない。人と話していて相手は穏やかに笑っていても心の声が悪意に満ちているときがある。そんなことが続けば誰でもいやになるであろう。これらの能力は都に先見の明をもたらしたともいえるが、都にとって邪魔者以外では何者ではなかった。
 
 大勢の人々の中にひときわ目立つ女性がいた。よく見ると、つり目の赤毛だ。その割には中世日本にあるような着物を着ている。そのアンバランスさが目立った。都は恐る恐る声をかけた。
「もしかして・・・あなたも黒の森へ?」
 相手はいきなり怒鳴った。
「それがどうしたっていうのさっ。あんたに関係ないでしょ!!」
 つんけんどんに女性、あずみはそう答えた。だが、悪意は感じない。聞こえない。都は安心して声をさらにかけた。
「一緒に行かない? あなたも元の世界に戻りたいんでしょ? その格好じゃ、私より古い時代の人みたいだもの」
 にこっと都は愛想よくいうとあずみは一言ああ、と叫んだ。
「どいつもこいつもあたしを馬鹿にして。あたしが何をしたっていうのさ。単に赤毛なだけじゃないかっ」
 きーっとあずみは癇癪を爆発させる。周りのものはあずみがキーキー言っているのにもかかわらず前に進むことしか考えない。
「別に赤毛だから声かけたわけじゃないけど・・・」
 悪意がないことを必死で伝えるが、頭に血が上ったあずみには通じない。
「何だよ。何だよ。あたいが赤毛で青い目をしているだけで誰も彼もが変な目で見る。あたしはあずみ。それ以上でもそれ以下でもないよっ!」
 あずみがそう叫ぶと通り道のわき道にあった木に火が灯った。
 
 
 ポッ。ポッ。ポッ。
 
 数個の火がつく。このままでは火は燃え広がり、火事になってしまうだろう。おろおろする都たちのそばで火が消えた。
「あなたが消したの?」
 都が恐る恐るあずみに聞く。あずみは放心した様子で首を横に振る。思わぬ力の発動にあずみ自身動揺していた。
「じゃ・・・。誰が」
 私ですよ、とやわらかい声が聞こえた。
「物騒ですねぇ。木に火をつけてはだめですよ」
 声の穏やかさとは反面無表情な男性が声をかけた。青い髪だ。片目を隠している。
「カッとするのはいいんですがねぇ。ああ、あなたたちも黒の森へ行くんですね」
 青年、カルマは勝手に納得する。
 
 ちょ・・・。
 
「ちょっとタンマー」
 
 都は放心しているあずみの手をとり、カルマの腕をひっぱって道の脇にひっぱっていく。太郎は都の行くところならどこでもという具合なのでほうっておいてもついてきた。
 
 はぁ。と都は深呼吸をする。それからゆっくり口を開いた。
「まず。自己紹介ね。私は藤原都。都でいいわ。あなたは?」
「あずみさ。さっき言っただろう? 苗字なんてつけられるおえらいさまじゃないってーの」
あずみが都にかみつく。
「苗字は私たちの時代では普通なの。変なところで噛み付かないでよっ」
 あずみが叫べばいったん冷静になっていた都も叫ぶ。あやうく喧嘩かというときにカルマと太郎は二人を引き離した。
「喧嘩はおよしなさい」
「ミヤコ。仲良く仲良く」
 ぜいぜいと視線を合わせながらも二人は押し黙った。
「今度は私ですね。ルー・カルマといいます。まさかこんなところにくるとはね」
「まさか」
 言外の言葉に含みを感じた都は問い返した。
「私は自分の力でここに来たんですが、この世界では私の魔術は通用しないようなのです。別の魔力が作用しているようなので。この世界の中心といわれている黒の森に行けば、帰り方を教えてもらえるかもしれないと思って進んでいたところです。少なくともみな、似たような動機で動かれているようですね。あのわけのわからない人々とは違って。彼らは帰る場所を探しているというか救いを求めているという感じですね。まぁ、居場所を求めるのと救いを求めるのは得てして似たようなものですがね」
 カルマはそういって都、あずみ、太郎を見回す。
「おや。この小さなお子さんは?」
 面白そうな口調に都は真っ赤になって反論する。
「私の子供じゃないわよっ。私がこの世界に来たときにいた子供よ。名前は太郎。名前がないっているからつけたの。日本では一番有名な名前でしょ?」
 あとはつけたすよう、少し照れて都は言う。
「そうですか。それでは知り合ったのも何かの縁。一緒に参りましょう」
「あたしは何も言ってないよ」
「何か?」
 ちろん、とカルマがあずみを見た。あずみがうっとつまる。有無を言わさぬカルマに押されてしまった。
「なんつー。マイペース野郎・・・」
「何かいいましたか?」
「いえ、何でも」
 都はにっこりと微笑む。悪意の持ち主ではないが何か隠している。そうかんじるのだ。気をつけたにこしたことはない。
 それにしてもこれだけ変わったパーティだ。無事にことはすまないだろうと都は頭の痛くなる思いがしていた。
「ミヤコ。おなかすいた」
「あんたってそればっかりじゃないの」
 都が太郎に突っ込む。
『おなかがすいた』。
 この言葉を都が発してから数時間食事を取ったにもかかわらず太郎は馬鹿の一つ覚えのように繰り返していた。太郎自身はろくに飲みもしないし食べもしない。通常の子供とはおよそ違っていた。食べ盛りだろうに。都には太郎の存在が不安材料になってきていた。しかし、カルマも少食だし、あずみも粗食だ。太郎も食べることはほとんどない。現代人都にとっては異常事態であった。それで散々わめいてカルマから食事をうけとってがつがつ食べていたのだ。おかげで元気にはなったが太郎に余計な言葉を教えさせてしまった。何かあるとかならず「おなかすいた」が出てくるのであった。
「恥ずかしいからほかの言葉言ってよ。ミヤコ美しいとか」
 これも恥ずかしい言葉であるが花も恥らう乙女の都にとっては食欲をアピールされるよりはましに思えたのだった。
「ウ・ツ・ク・シ・イ?」
 ぷっとカルマが吹き出す。
「都に美しいというよりはかわいらしいがあっていますよ。まだ20歳前じゃないですか?」
「そーいうあなたは何歳なのよ。何歳」
 都は子ども扱いされたことに腹を立てて話の矛先をカルマに向ける。
「240歳と10ヶ月でしょうかねぇ?」
「240・・・」
 異常だと都が言う前にあずみの顔が蒼白になった。
「そんな年じゃ、化け物じゃないか」
 それも無理はないあずみのいた中世日本では40生きることができれば人生全うしたぐらいだ。その何十倍もある年齢を聞いて化け物だと思わないほうがおかしい。
「あずみの見方じゃ、誰も彼もが化け物よ。私の時代なんて赤や青の髪の毛も金髪もいるし。なんでこだわるの?」
「あんたの時代じゃ普通でもあたしの時代では異端児なのよっ。おまけにあんな力持ってるなんて・・・おしまいだ」
 頭をたれて落ち込むあずみに都は毅然と顔を向けた。
「力なんて私だってもってるわよ。」
 さりげなく都は言うと道端の石ごろを凝視した。
 
 ふわり、と石ごろが浮き上がった。
 
「あんた!」
 あずみが再び驚く。
「あずみが変なら。私も変なの。こんな力ないほうがいいって思ってることも事実。でもこれをひっくるめて私。隠して生きていくのは大変だけどそれほど神経質になるほどのことじゃない」
 自分でも信じられないほど優しい声で都はあずみを慰める。そのあずみに腕をかけようとして振り払われた。
「あんたの世界ではうまく隠せるかもしれないけどあたしの世界は黒い髪の毛黒い目の中にいるんだよ!! おかげで恋人とも引き裂かれてあばずれ女のできあがり。あんたに何がわかるっていうのさ。石を投げつけられて殺されそうになった経験があるのかい?」
 あずみの鼻息荒い言葉に都が反論する。
「じゃ、何? 目の前で笑っている人が実は自分に悪意を持っていたと知った気持ちはどうなるのよ? 私だって人間嫌いよ。人間なんて大嫌い。でもそれでも生きてくしかないじゃないの。失敗したって中身ばればれでも私は私なんだから。変えようのないことで人生あきらめるのは理由になんないよ!!」
 都は理性をとりくずしあずみに近寄ってむんずと襟をつかんだ。都の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
「都。あんた・・・」
 あずみはどういえばいいのかわからず口を開こうとしてまた閉じた。
「人の気持ちもわからないで文句たらたら言うやつなんて生きている資格なんかないよっ」
 都の涙が飛び散ったと同時にぱしん、乾いた音が響いた。カルマが都のほほをたたいていた。
「どんな理由にせよ。人の生きる資格を軽く判断するものではありませんよ」
 カルマがおだやかにいう。都は涙を吹きながらうなずく。
「ごめん。あずみ。悪いこと言ったと思うけどなんか昔の自分に見えたの。人とうまくやっていけない自分と重なって・・・」
 都がしゅんとうなだれる。
「都。ごめん。あたしばかりが・・・」
 あずみが声をかける。
「いいの。あたし一人のわがままだから。見てるとがまんできないのよ。いいかげん生きている人が目の前にいるだけでカッとなる。その人の命はその人の命なのにね。つい自分とダブらせてしまう。おせっかいもいいところだよね」
 そういって都はまたぽろぽろ涙を落とす。
「ミヤコ。なかないで」
 太郎が精一杯背を伸ばしてハンカチを都に差し出す。都はそれを受け取ると両目に押し付けた。こらえた嗚咽が聞こえてくる。
「ごめん。泣き出したらとまらないの」
「笑い上戸とは言いますが泣き上戸とはね。大変なお嬢さんだ」
「そういうあんたはおじさんじゃないの?」
 都はハンカチで涙を拭きながらカルマに突っ込む。
「嫌ですね。いい男に年齢など関係ありませんよ」
「太郎、イイオトコ?」
 太郎が覚えた言葉をまた使い出す。それを聞いた都が噴出す。
「うん。いい男。いい男」
 そういって金色の髪をくしゃくしゃなでまわす。
「かわいいぼっちゃんだと思いますがね」
「ボッチャン? イイオトコ?」
 太郎がきょろきょろ都たちの間を見回す。
「うん。ぼっちゃんでいい男」
 あずみもいつしか笑いながら答えていた。
 四人の間に笑いが起こっていた。
 

 
 
 
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